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薄膜「コンビナトリアル技術」とは?技術内容と就職先の企業を解説!!

みなさんこんにちは!

リ〜ふです。

大学、大学院と金属や金属酸化物のナノ合成、触媒反応に携わり、現在は薄膜関係の会社で楽しく働いています!!

薄膜材料の面白さや、薄膜業界でのキャリア形成を中心に記事を書いています。

本日の目次はこちら!!

コンビナトリアル技術とは?

り〜ふ
り〜ふ
最先端の技術!!

薄膜の「コンビナトリアル技術」とは、

複数の組成の異なる材料を一枚の基板に同時成膜する技術

のことで、材料科学における効率的なアプローチ手法の一つです。

その特徴として、「並列探索」「高スループット評価」「材料の探索空間の拡大」があります。

並列探索

一つ目の特徴として、並列探索があります。

並列探索とは、「並列処理によって、複数の可能性を同時に探索する」ことです。探索対象一つ一つを順番に成膜していく必要がないため、一度に色々な組成を並行して探索していくことが可能になります。

高スループット評価

二つ目の特徴が高スループット評価です!

高スループット評価とは、ある化合物を高速で評価する手法のことです。薄膜材料というのは、通常一回の成膜で、一種類の組成の薄膜を形成することができます。この方法では、沢山の種類の組成を調べる実験をする場合、途方もない時間がかかってしまいます。

しかし、コンビナトリアル技術なら、一つの化合物の様々な組成について、高速で評価することが可能になります!!

材料の探索空間の拡大

材料の探索空間の拡大とは、何か新しい機能性材料や、新製品を開発する時、考慮する材料や条件の範囲を広げることです!!

既存のデータ領域にはない領域へのアプローチ、組成の多様化、パラメータ空間の拡大(組成、プロセス条件、添加剤、溶媒のせんたくなど)、効率的な探索手法などが例として挙げられます。

探索空間の拡大により、従来の経験や直感に基づく材料開発に対して、データ駆動型のアプローチで新たな材料や機能性物質の発見を加速することが目的とされています!

まさに、コンビナトリアル技術は、材料の探索空間の拡大に貢献し、時代の流れであるデータ駆動型のアプローチを達成します!!

技術登場の背景

もしかしたら材料系の研究をされていた方、現在されている方はわかるかもしれませんが、機能性材料のアプローチって本当大変ですよね・・・

論文や理論、自分の研究の目的などから、材料の検討を開始して、材料を決定しても、比率や実験条件によって、何度も何度の実験を繰り返し考察を重ねます。

研究開発というのは、華々しい仕事のように見えますが、実は大変な忍耐力を必要とする仕事です。

薄膜の材料組成を変更して、最適な実験条件を繰り返すとなった場合、薄膜の成膜には時間がかかるものが多いです。

例えば、私の扱っていた成膜手法であるCVD(化学気層堆積)法では、一回の成膜に対して、大体一回あたり、4~5時間は掛かっていました。

それが、もし目的の材料の比率を一度の成膜で、精度良く再現することができたら最高だと思いませんか?

そういった背景があって、開発されたのが、この「コンビナトリアル技術」なんです!

技術の仕組みを解説!

組成傾斜膜

コンビナトリアル技術のポイントは「組成傾斜膜」です!!

コンビナトリアル技術では、一つの基板上に、移動マスクを用いて膜厚傾斜を持つとても薄い層を交互に積み重ねていきます。

こちらの青色の部分が薄膜になりますが、実際には、この一つのユニット層の厚みは、原子間距離に近いほど薄いのです!!

次にもう一つの材料を逆方向から、傾斜をつけるように成膜していきます。

この極薄層を交互に組み合わせることで、0%から100%まで材料の組成を変化させた理想的な混合薄膜を同一基板上に成膜することが可能になります!!

移動マスク

先ほど説明した、組成傾斜膜はどのように成膜するかというと、、、「移動マスク」を使用します。

通常薄膜形成というのは、CVD装置やスパッタ装置などといった機会を用いて、基板の上に金属を降らせていくような形で成膜されていきます。

このスパッタ装置と、基板との間に移動マスクを設置し、マスクを少しずつ移動させながら成膜を行うことで、傾斜マスクが形成されていきます!

こちらの「株式会社コメット」のホームページでも紹介されていますので、良かったら確認をしてみてください。

https://www.comet-nht.com/concept.html

「コンビナトリアル技術」課題点

このように、とても魅力的な「コンビナトリアル技術」ですが、その課題点としては以下の点が挙げられます。

  • 複雑な製造プロセス
  • データ管理・解析の難しさ
  • 運用コスト・初期コストの高さ
  • スケールアップの問題

複雑な製造プロセス

成膜プロセスでは、基板上の異なる領域にわずかに異なる組成や膜厚を再現性高く形成する必要があります。そのため、複雑な制御プロセスが求められます。装置の制御が不十分だと、ターゲット組成のばらつきや、膜厚の均一性に影響が出るため、信頼性の高いデータが得られなくなります。

データ管理・解析の難しさ

コンビナトリアル成膜では、その特性上膨大な量のデータを取得します。このように大量のデータを処理するために、プログラミング処理や、適切なデータセットのスキルが重要になります。

また、ただ全ての組み合わせを試し、良かった組成の組み合わせをピックアップするだけでは、考察に欠け、最終的な実験結果が本当にそれで良いのかといった裏付けが取れないデータになってしまう可能性があります。

データ処理と、科学的な探求姿勢の両方が重要になります。

運用コスト・初期コストの高さ

コンビナトリアル成膜技術では、正確な組成傾斜膜が必要とされるため、ALDのような非常に精密な膜を形成する装置が必要となり、それだけ高額な装置となります。

また、ALDの欠点は、成膜に時間がかかることです。

成膜装置は真空状態の管理や、ガスの管理など、一様にコストがかかりますが、その中でも、より時間とコストのかかる技術であるという点は注意点になります。

スケールアップの問題

コンビナトリアル成膜技術は、一つの基板上に対して、大量の組成の組み合わせを成膜するという特性上、必然的に、スケール範囲が非常に小さくなります。

もし、この技術を用いて、同条件で基板全体に成膜を行うといったスケールアップの段階になり、実験データに相違が現れる危険性を考慮する必要があります。

コンビナトリアル成膜技術の利点と課題点まとめ!

コンビナトリアル技術の強みと弱みをまとめてみました!!

強み弱み
精密な組成制御複雑な製造プロセス
高速な組成探索を可能にするデータ管理や解析の難しさ
幅広い応用範囲運用コストや設備費用の高さ
未知領域の材料探索の可能性スケールアップの課題

精密で、幅広い材料探索を可能にする素晴らしい技術ですが、そのデータ量が膨大になるが故に、プログラミングなどを用いた適切なデータ解析のアプローチが重要になってくる点、また、高度な技術を有しているがゆえに、装置のコストや運用コストの高さが課題点の代表として挙げられそうです。

また、こちらは研究者としての個人的な意見になりますが、データ解析に頼りすぎると、力任せのアプローチに偏ってしまい、考察や原理を深掘りする機会が奪われる危険性があるのではと思います。使いこなしていくことが大切になってきそうですよね!

今後の未来と関わりの予想される産業

マテリアルインフォマティックス(MI)

マテリアル・インフォマティックス(MI)とは、材料科学と情報科学の学問を組み合わせた新しい学問のことです。

従来、材料の開発は試行錯誤の実験を通じて進められていました。

しかし、マテリアルインフォマティックスでは、機械学習やビッグデータ解析などのデジタル技術を活用することで、材料設計や特性予測を効率化します

その特徴は大きく三つあります。

  • データ駆動型のアプローチ:材料の物性データや構造データを大量に収集し、アルゴリズムを使って最適化や予測を行います。
  • 計算材料科学との連携:第一原理計算(DFT)や分子動力学シミュレーションを用いて、実験では得られないデータを補完します。
  • 開発速度の向上:新しい材料の発見や設計にかかる時間が大幅に短縮されます。

コンビナトリアル成膜技術はまさに、一度に大量のデータを取得し、アルゴリズムによる最適化を行うのにとても相性の良い技術であると言えます。得られた研究データに、第一原理計算などの計算科学を用いて、さらなるデータ分析を行うことで、よりモデルの予測における正確性が向上します。

逆に言えば、プログラミングなどを用いたビックデータの解析技術がなければ、その膨大な処理を行うのは難しくなってしまうため、情報科学の知見が不可欠になります。

ナノスケールの材料開発

ナノスケール開発とは、通常1~100ナノメートル(nm)のスケールで機能する材料を設計・製造・応用する分野を指します。このスケールでは、物理的、化学的、機械的、光学的特性が従来のバルク材料とは異なる振る舞いを示すため、新しい特性や機能を引き出すことが可能となっており、現代の研究分野の主流となっている学問になります!

次のような特徴にまとめられます。

  • ナノサイズ効果:ナノサイズの材料では、表面積が非常に大きくなることや、量子効果といった通常の材料とは全く異なる新しい性質が発生する可能性が報告されています。
  • 異方性と界面効果:ナノ材料では、異なる材料が接する界面が特性に大きな影響を与えるため、材料設計の自由度が増します。また、特殊な作成方法をすることが多く、反応性の高い面が露出することがあるため、材料のナノスケールでの、特性解明に役立つことがあります。

特に薄膜材料は、通常のバルクと全く異なり、雪を上から降らせるような作り方をしますので、イメージできるような金属の塊などとは、全く作成方法が異なります。その分、穏やかで反応性の高い材料を作成することができたり、ナノスケールで同じような方向性を持つ材料を作ることもできるため、ナノスケールの材料開発とは非常に相性が良いといえます!

量子コンピュータ

量子コンピュータは、量量子力学の原理を利用して計算を行うコンピュータのことです。

主に次のような特徴があります。

  • 量子ビット(キュービット):従来のコンピュータは0と1の組み合わせによって、計算処理を行いますが、量子コンピュータでは、量子のスピン状態を利用して、0と1の状態を同時に取れるため、より早い処理速度で計算を行うことができます。
  • 量子もつれ:量子コンピュータでは、1つの量子ビットの状態を測定するだけで、他の量子ビットの状態も瞬時に決まります。この特性により、効率的な計算が可能になります。

量子コンピュータは、特性から、材料化学などのシュミレーション解析、データサイエンスなどと相性がよく、コンビナトリアル技術と組み合わせることでより優れた解析を行うことができると期待できます!

また、量子コンピュータの構成には、半導体材料が使用されています。この半導体薄膜の最適な組み合わせを、選ぶ際に、コンビナトリアル技術を組み合わせることで、優れた特性を持つ材料を導くことができるという可能性があります!

「コンビナトリアル技術」に関わる会社を紹介!!

株式会社コメット

株式会社コメットはコンビナトリアル技術を使い、短期間で機能性材料の組成最適化を可能にするサービスを行っている企業です。

https://www.comet-nht.com

株式会社コメットは、2007年、物質・材料研究機構の認定ベンチャーとして、スピンアウトしました。コンビナトリアル技術による新機能生材料の受託サービスを行っており、コンビナトリアル技術を世の中に送り出した、この業界での先駆者と言える存在です。

  • 材料に合わせた成膜手法の提案
  • 経験豊かな技術スタッフによるのサポート
  • 熱電材料、強誘電体、強磁性体、バッテリー電極、金属間化合物などの幅広い成膜分野
  • 二次元および三次元の組成傾斜膜を成膜可能
  • 組成変化に応じた多点物理分析の提供
  • スパッタ法とPLD(Pulsed Laser Deposition)法の二種類の成膜手法を提供

といった特徴があります。

メルク株式会社(インターモレキュラー社)

続いての企業はメルク株式会社です。

https://www.merckgroup.com/jp-ja/company/merck-ltd.html

インターモレキュラー社は先端ICチップの製造に用いる新しい材料や構造、製造プロセスの絞り込みを効率よく行うため、コンビナトリアル技術を半導体分野に適用しています。

https://eetimes.itmedia.co.jp/ee/articles/1312/09/news052.html

その後、株式会社メルクが2019年に買収を完了しました。この買収によって、インターモレキュラー社の社員90人が、メルクのパフォーマンスマテリアルズ部門に統合されたと報告されています。

https://www.merckgroup.com/en/news/intermolecular-20-09-2019.html

メルク株式会社は1968年に設立された、ドイツに本社を置く、医薬品、化学品の会社である(Merck KGaA)の日本法人になります。

⚠️ここから先の情報は推測の情報になります。

メルクでは、半導体業界向けの材料やソリューションを提供するエレクトリニクス事業を展開しています。コンビナトリアル技術は、半導体製造における新材料の開発やプロセスの最適化において、効率的な組成探索や特性評価を可能にするため、この分野での活用が考えられます。メルクではカスタムマテリアルソリューションのサービスを提供しており、コンビナトリアル技術が採用されていると考えられます。

エスシーティー株式会社

エスシーティー株式会社は、2016年に設立された、産業用材料の研究開発に特化した企業です。

https://sct-inc.co.jp/

技術の一環として、コンビナトリアル成膜、マテリアル・インフォマティックスが提供されています。

主な特徴としては、

  • ノテクノロジーとコンビナトリアルテクノロジーを融合させた固体材料開発の高速化システムの販売と研究受託。
  • 産業用材料の受託研究開発、コンサルティング、機器開発を行う知能集約型の会社
  • 固体レーザーの高速探索と機能開発に向けたレーザー材料研究会など、専門的な研究会を主催
  • 企業理念は、イノベーション創出であり、研究開発を重視する企業

などが挙げられます。

株式会社KRI

株式会社KRIは1987年に設立された、材料分野やエネルギー・環境分野を中心とする受託研究を行う企業です!!

https://www.kri-inc.jp

事業の特徴としては、

  • 材料分野、エネルギー・環境分野を中心とする研究開発の受託
  • 分析および試験評価
  • 上記に関わる調査・業務支援
  • 約120名の研究員を擁し、その約3割が博士号取得者
  • 機能性材料、電池、環境、バイオ、データ解析などの幅広い領域をカバーしている

といったユニークな特徴を持つ企業になります!

株式会社パスカル

株式会社パスカルは真空薄膜形成装置や成膜装置の開発・製造を行っている企業です。

http://www.pascal-co-ltd.co.jp/#

事業の特徴は

  • PLD(パルスレーザー堆積法)/レーザーMBE装置の開発を行っている
  • スパッタリング装置や電子ビーム蒸着装置など、様々な薄膜形成技術を扱っている
  • AIとロボット技術を融合させ、自動搬送・成膜・評価・最適化を実現するクラスターシステムを開発

といった特徴があります!!

まとめ

今回は、薄膜の「コンビナトリアル技術」について、説明をさせていただきました!

  • コンビナトリアル技術とは、一枚の基板に対して、0%から100%までの組成を含む組み合わせで成膜することができる技術
  • 技術のポイントは組成傾斜膜

また、おすすめの企業や、これからの将来性についても紹介させていただきました!!!

もし興味があれば、今後の研究や就職、転職などのキャリア情報に役立てていただけたらと思います。

記事を最後まで読んでいただきありがとうございました☺️